あのあと香菜は次の授業に出るために教室へと向かっていた。
もうすぐ授業が始まるためか廊下にはあまり人がいなかった。
しかし香菜にとってそんなことは気にならなかった。足取りも重い。
佐々木君に告白されて、先生と話して。
今の香菜の頭の中はこの2つに占められていた。
先生は香菜が告白されたと知っても、好きな人がいると知っても特に反応はなく、むしろ応援されてしまった。
やっぱり私は眼中にないのだと改めて感じた。
辛い。悲しい。苦しい。
先生にとって私はただの生徒なのだから当たり前なのだけれど、それを実際に目の当たりにするとやっぱり悲しい。
香菜は溜息を吐く。
そして佐々木君の言葉を思い出した。
『竹内さんを知れば知るほど好きになっていった』
香菜はかぁぁと赤くなる。
あの時のまじめな佐々木君の表情。
初めてされた告白。
香菜は瞳を閉じる。
佐々木君を好きになれば私は楽になれるのかな…
香菜はそう思って唖然とする。
それは佐々木君に対して失礼ではないか。
ただ、それは自分から逃げてるだけじゃないのか。
香菜は苦笑する。
そんなことを考えてしまった自分が嫌だった。
教室に入るとすぐに英語の先生が入って来た。
香菜は慌てて席に着く。
そのとき都と目が合って、そわそわと香菜を見ていた。
そんな都に苦笑して『あとで』と香菜は声に出さずに言うと都は頷いて前を見た。
授業中の香菜は集中できずに上の空の様で。
都は少し心配になる。
いったい何があったんだろうと思った。
佐々木君には告白されたんだろうけど、それにしては香菜が沈んでいるように見えた。
香菜は抱え込む子だから…とふぅと溜息をついて私がしっかりしなければと都は気を引き締めた。
放課後になり、受験生でもあるクラスメイト達はさっさと帰っていく。
そんな中、香菜と都は教室に残っていた。
香菜の前の席に都は香菜の方を向いて座り、帰っていく友人たちに挨拶をする。
教室から生徒がいなくなったことを確認すると都は教室の扉を閉めた。
そして香菜の前に戻ってきて香菜の顔を見る。
「何があったの?」
その一言に香菜は目を丸くする。
てっきり『告白はどうだった!?』とか『なんて言われたの!?』と言われると思っていたからだ。
そんな都に香菜は微笑む。
「何って?」
「だって香菜、なんか元気ないじゃない」
それに香菜は都の顔を見た。その顔は心配そうに香菜を見ていて。
「佐々木君に何か言われた?」
「ううん。違うの」
そう言って香菜は笑おうとしたが涙が溢れだしてしまった。
今まで我慢していたものが溢れだしたのだ。
泣き出した香菜に都は慌ててあたふたする。
「やっぱり何か言われたの?」
涙が止まらなくて香菜は頭を横に振る。
そしてごめんねとしか言わない香菜に都はただ香菜の頭を撫でて慰めることしかできなかった。
少しして香菜は泣きやむと都を見た。
「大丈夫?」
「泣いてごめんね」
「いいよ。それより何があったの?」
香菜は都に少しずつ話し出す。
佐々木君に告白されたこと。返事に困っていたところを先生に助けてもらったこと。先生と話したこと。思ったことの全てを。
香菜が話してる間、都は静かに話を聞いてくれていた。
「結局ね、私は先生にとってただの生徒なんだなって思ったら悲しくて」
香菜は切なそうに笑って俯いた。
「やっぱり無理なのかな…」
そう言った香菜の顔を都は掴んで上を向かせた。
都の顔は複雑そうに歪んでいた。
「香菜のはっしーへの想いってそんなものだったの?」
香菜は目を丸くする。
「そんなに簡単に諦められるものだったの?」
都の顔が真剣で香菜は目が離せなかった。
都の言葉の一つひとつが心に刺さる。
香菜は首を横に振る。
それを見て都は香菜の顔から手を離す。
「だったら無理って言うな。諦めたらそこまでだよ」
香菜は頷く。
諦めたらその先には何もない。
「香菜が選ぶんだよ。佐々木君かはっしーか。はっしーが無理だから佐々木君を選ぶんなら私は許さない。だけど、香菜が佐々木君がいいって思って佐々木君を選ぶんならそれはいいと思う」
香菜は涙を湛えた瞳で都を見る。
そんな香菜に都は笑った。
「私はいつでも香菜の味方だから。いつでも相談に乗るから。だからもっと頼って」
「みやこ〜」
また泣きだした香菜を都がよしよしと抱きしめて背中を優しく叩いてやる。
「ありがと、都」
はいはいと都は笑う。
そして都は立ちあがった。
「暗くなってきたし帰るか」
そう言われて窓の外を見るとだいぶ日が沈んでいた。
都は既に帰り仕度を始めていて、首に赤いマフラーを巻いていた。
そして香菜も慌てて帰り仕度を始める。
「香菜ー。電気消すよ」
「待ってー」
香菜は慌てて都を追いかける。
そして2人は笑いながら帰っていった。
---コメント---
第7話〜。
友情っていいねー。って話しです。
2009.12.12
>>andante・目次
>>Top