授業が始まっても香菜は帰ってこなかった。
都はそわそわと教室の扉を気にするが開く気配は一向にない。先生にばれないように机の陰で携帯を見た。
携帯には1件の新着メール。
都はまさかと思いながら、メールをチェックする。やはり香菜からだった。
『先生に好きって言っちゃった…』
その内容に都は思わず声を上げそうになるが必死に飲み込む。
なんでそんなことになってるの?というのが都の最大の感想だったが、『今どこにいるの?』と返事をした。
都はそわそわと返事を待つがなかなか返ってこない。
そのことに痺れを切らした都は手を上げ立ち上がった。


「どうした?愛内」

「愛内都は体調がすこぶる悪いので本日早退します」

「おい…」


都は自分の鞄と香菜の鞄をひったくって教室を出て行った。


「愛内、元気じゃないか…」


英語の教科担任の山本先生は都の出て行った扉にぽつりと呟いた。
教室を出た都は下駄箱へ走った。
香菜の靴を確認するとローファーが置いてあった。まだ校内にいるようだ。
都が携帯を確認するとちょうどメールが入って来た。
『裏庭にいる』
それを確認して、都は裏庭へ走った。





香菜は裏庭にあるベンチに座っていた。
どうして言ってしまったんだろう。
言うつもりなんてなかったのに。
そして一番聞きたくなかった言葉。
『教師だから』
思い出すだけで涙が溢れてくる。
分かってたことなのに。
思わず逃げてきてしまったことにも後悔の念が込み上げてくる。


「先生に会ったらどんな顔すればいいのよ…」


香菜は手で顔を覆って俯いた。
もう二度と前みたいに話せないかもしれない。
もう二度と笑いかけてくれないかもしれない。
そんな恐怖が香菜の胸に込み上げる。


「香菜!」


名前を呼ばれて香菜は驚いて顔を上げた。


「都?」


香菜は驚いたように息を切らして立ってる都に言った。


「え?なんで?授業は?」

「それはこっちのセリフ!」


都は自分と香菜の荷物をベンチに置いて、自分も腰かけた。


「授業サボるなら誘ってよね」


そう言って都は悪戯っぽく笑った。
そこで会話が途切れた。
冬の寒い空気が2人を包む。


「先生に好きって言ったんだ」


香菜がぽつっと言った。
都はちらっと香菜を見ただけで特に何も言わなかった。


「そしたら、『教師だから』ってフラれた」


香菜は空を見上げる。


「そんなこと分かってたのに。言ったら終わること分かってたのに」

「言っちゃったんだね」

「うん」


涙を流す香菜の肩を都がそっと抱いた。


「辛いね。悲しいね」

「うん」

「泣きな。泣いて泣いて、辛い気持ち、全部流しちゃえ」


寒い冬の日、香菜が泣きやむまで都はそっと香菜に寄り添っていた。






それから冬休みまではあっという間だった。
先生と接点を持たない様にするのは簡単だった。
授業だって気まずかったけど案外大したことはなかった。

テストが終わって冬休み。
冬休みが明ければ、3年生は自由登校になる。
休みは都と遊ぶことが多かった。
佐々木君からも何度か誘われたけど、なんだか乗り気になれなくて。
試しに『都と3人で』と言ったらすんなりOKしてくれた。
それからは3人で遊ぶことが多くなって香菜も少しずつ元気になっていった。

そして迎えた高校生活最終日。



卒業式。














---コメント---
次は卒業式です
恐らく最終回




2012.9.20

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