土曜日。佐々木君とのデート当日。
遊園地日和な晴れた12月にしては暖かい日だった。
香菜は待ち合わせの5分前に駅に着いた。
白のニットに赤いチェックのプリーツスカート、黒のタイツにこげ茶の革のブーツ。それに紺のPコートを合せた。
軽く深呼吸をして、自分の身なりをチェックして駅の中へと入って行く。
土曜日と言えども、スーツに身を包んだ人、制服の人、私服などの人たちで混雑していた。
少し早く着いてしまったから佐々木君はまだ来てないかもと思いながら、香菜はきょろきょろと改札の辺りを見渡す。
すると改札の前にある柱のところで手を軽く上げた佐々木君の姿があった。
香菜は小走りで佐々木君の元まで行く。
佐々木君の前に立って、香菜はどうしたらいいのか分からず、「お、おはよう」とぎこちない笑顔で挨拶をした。
そんな香菜に佐々木君は一瞬目を見張って、笑顔で「おはよう」と返してくれた。
佐々木君の笑顔を見て香菜の緊張は少し解けた。


「あの…早かったね。待った?」

「ううん。俺もちょうど着いたところ。行こうか」


香菜が頷くのを見て、佐々木君は歩き出す。
いつもの見慣れた学ラン姿じゃなくて初めて見る私服姿。
アイボリーのパーカーにジーンズに黒のスニーカー。
いつもと違った佐々木君の雰囲気に香菜は少しどきっとした。
改札を抜けてホームへと向かう。
2人の間に会話はなかった。
香菜は佐々木君の横顔を見上げる。自分より高い目線。
佐々木君が視線を感じたのか、香菜を見た。
目が合った2人はにこりと笑ってそれぞれ目線を逸らす。
香菜は顔を僅かに赤く染めて俯く。
なんだか恥ずかしい。
香菜はもう一度、今度はばれないように佐々木君を見上げた。
佐々木君は少し前を向いていて、その横顔は少し紅潮していた。
香菜は軽く目を見張る。
顔を赤くしている佐々木君を少しだけ可愛いと思った。
ホームで少し待つと電車が来て乗り込んだ。
電車は座席に僅かに空席があるくらいで、立っている人もちらほら見受けられる。
香菜と佐々木君はドアの前に立って流れる景色を眺める。


「今日は暖かいね」


香菜は佐々木君を見上げて話しかけてみる。
すると佐々木君は笑顔で「うん」と言った。
ガタンゴトンと音を立てて走る電車。
僅かに聞こえる会話の音。
特別な音じゃない。なのに聞きなれた音も新鮮な音のように感じる。


「圭からなにか聞いた?」


佐々木君が気まずそうに尋ねてきた。
香菜は少し考えて、「ああ」と納得したように佐々木君に微笑んだ。
先日圭一が部活で話を聞いて香菜を質問攻めにしたことを思い浮かべた。
圭一は部活では『圭』と呼ばれているのか。


「部活でのこと?」

「やっぱり聞いた?」


香菜は軽く声を上げて笑った。
佐々木君は少し困ったような表情をした。


「圭はなんだって?」

「別に大したことは…聞いてないかな」


香菜はくすくすと笑う。
そういえば佐々木君、部活で冷やかされたって圭一が言っていたっけ。
気にしてるのかも知れないと思った。
佐々木君は気まずそうに頭を掻いていた。





遊園地に着くと土曜日なだけあって混み合っていた。
チケット売り場には当日券を求めて長蛇の列が出来ていたが、香菜たちは優待券を持っていたため、 スムーズに遊園地へ入園することが出来た。


「なにから乗ろうか?香菜は絶叫系は平気?」

「大好き!」

「じゃあ、絶叫系攻めよう」


そう佐々木君は悪戯っぽく笑った。



夕方ごろには香菜と佐々木君はめぼしい乗り物は乗り終えて、最後に観覧車に乗ることにした。
観覧車に乗り込むと香菜は外を眺めた。
少しずつ地上から離れて行くこの感覚はいつになってもわくわくする。


「観覧車なんて久しぶり」

「俺も」


2人はそれぞれ外を眺める。
いつしか会話のないことも気まずくなくなっていた。


「楽しかった?」

「うん!楽しかった」


そう満面の笑みで答えた香菜に佐々木君は微笑んだ。
その笑顔は嬉しそうで、香菜は思わず見とれてしまった。












---コメント---
佐々木君と香菜ちゃんの初デート(笑)




2012.8.31

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