昼下がり。

5時間目と6時間目の間の休み時間。
化学の授業が終わって教室へ戻る途中に、廊下ですれ違った数学教師。
名は橋本慎一。
若くて優しくて。女子に人気のある先生。
いつもいつも綺麗な子が周りにいて、困った顔をよく見る。
特に最近は卒業が近いせいか、女子のアタックが激しい。

そして私は竹内香菜。高校3年生。
先生とは授業で会うくらいで、特に仲は良くも悪くもない。至って普通。
私が先生への想いに気がついたのは、ほんの最近。
前は良い先生だなぁって思っていた程度だった。
でも卒業が近くなって、思うのは先生ばかりで。
簡単に会えなくなると思うと、胸がきゅんと締め付けられる。

そして、気がついたのだ。



私は、先生に


恋をしてるんだって。




「はっしー、相変わらずモテモテね」


そう話しかけてきたのは、香菜の親友の愛内都。
ミーハーな彼女だけになかなか先生への想いを打ち明けられず、未だに都は香菜の気持ちを知らない。


「…そうね」


軽くそう流すと、都はミディアムヘアーを揺らして香菜を覗き見た。


「なに?都」

「ん?べっつに〜。そういえば、香菜の恋バナ聞かないなぁと思ってさ」


香菜は思わず手に持っていた化学の教科書を落としかけた。
慌てて姿勢を立て直す。


「はぁ?」


香菜は務めて冷静を装う。
都の突拍子のない発言にはいつも驚かされるわ。


「だぁって、かれこれ3年も一緒にいたのに、一切ないんだもん。別にモテない訳じゃないし…いいの?そんなんで」

「そんなん、て…。彼氏とか、好きな人って別に無理矢理に作るものじゃないでしょ?」

「そうだけどさー…。勿体ないよ?香菜、可愛いのに」


その一言に思わず吹き出す。
それに都ははぁとため息を吐いた。


「あんた、自覚なさすぎ。結構いるよ?香菜ファン」

「まさかー」


告白されないし。と、切り返すと、都が人差し指で指差してきた。
思わず少し後ろに仰け反る。


「それは、香菜が男を近づかせないからっ!」

「はぁ…」


よく分からない。
別にそんなつもりもなかった。都の思い違いじゃないの?と、心の中で反論する。
口に出せば、倍以上になって返ってきそうなので黙っていよう。


「で、どうなの?」

「な、なにが?」

「香菜の好きな人よ!」


思わず先生を思い浮かべてしまい、顔がかぁーっと赤くなる。
それに都がにやりと笑った。


「いるんだ?」

「いない!いないよっ!!」

「しらばっくれるな!この都様の目を誤魔化そうなんざ100年早いんだよ!放課後、ミセドでこってり絞り出してやるわ!」

「都っ!ほんとにいないからっ」


香菜は右手をぶんぶんと振りながら真実だと訴える。
すると、頭にぽんと何かが乗った。


「なにがいないんだ?」

「はっしー!」


その名を聞き、ぱっと振り返るとそこには先生がいて。手を香菜の頭の上に乗せていた。
かぁーと顔が熱くなるのを感じ、見られないように俯く。


「聞いてよ!!香菜ってば親友の私に好きな人がいることを黙ってたのよ」

「わぁ――――ぁ!都!!」


慌てて都を押さえにかかったが間に合わなかった。
真っ赤な顔で先生を見ると、きょとんとした顔で香菜を見ていた。


「竹内、好きなやついるのか?」


かぁーっと今まで以上に顔が熱くなる。
倒れそう…

覚えてなさいよ、都!


「いるんだってっ!誰かはまだ知らないけど」

「まぁ…あまり竹内をいじめてやるなよ?」


いじめてないよっ!と、笑いながら言い返す都に、先生はただ笑っていた。


結局はただの『生徒』の中の1人、なんだよね?

苦しいよ…



先生―…




「おっと、そろそろチャイムが鳴るぞ。教室に入りな」

「はーい…って、はっしー?次、数学じゃないよ?」


都が気がついたように言った。
香菜も都に倣って先生を見上げる。


「杉浦先生は出張。よって今日は自習で、僕が監督」


そして、ふと私を見て笑った気がした。
それだけで落ち込んでいた気分が復活する。


「さー、入った、入った」

「はぁーい」


はっしーが監督じゃ、自習にならないね。と、都が小さな声で言ってきたので思わず吹き出す。


「なに笑ってるんだ?」

「べっつにー?ね、香菜?」


都に続いて教室に入ろうとしていた香菜の肩を、先生がさっさと入れとトンと叩いた。












---コメント---
新連載です。先生×生徒です。
このお話では竹内香奈ちゃんの切ない想いをみなさんに伝えられたらな。と思っています。
学園ラブコメを書くのは初めてです。暖かい目で見守ってください。




2007.1.24

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